物件によっては「地役権設定をするか」「通路協定書を取り交わすか」で迷うこともあると思います。
必ずしも「地役権を設定しなければならない」とか「通路協定書を取り交わさなければならない」などという決まりがあるわけではありませんので、不動産会社によっては「何もしない」というところもあるかもしれません。
確かに、地役権を設定してしまったり、協定書を取り交わしてしまったりすると、「権利」と同時に「義務」が発生しますので、十分に検討して対応する必要があります。
物件によっては「何もしない」ということが有効になることもあります。
事実、以前こんなことがありました。
2棟の新築分譲の横並びの現場で、2棟と道路が接している部分を「間口を底辺とした二等辺三角形の形で通路協定書を取り交わして販売」したという物件です。
営業担当者は「新築のお客様(二組)が、お互いに車の出し入れをしやすいように」と気を利かせて、三角形の形に協定書を取り交わして販売したのです。
ところが、販売後、その物件の前をとおったときに偶然見たそうです。
「お客様が、あえて協定部分を踏まないようにして車を駐車している」ところを…。
これでは、何のために協定書を取り交わしたのか分かりません。
改めて協定書を見てみると、協定されている区域は「動産物もおいてはダメ」となっており、結果として「自分の土地なのに100%使用できない」という残念な結果となっていました。
このようなことが起こらないように、地役権設定や協定の取り交わしをするときは安易に決めず、「本当に必要なのか」「どのような内容が必要なのか」をきちんと検討する必要があるのです。
では、どちらを選択するのか。以下に記載する例は一つの考え方であり、絶対的な正解はありません。
例えば、次のようにしてはいかがでしょうか。
①新築の多棟現場で「道路形状の通路」を作るような場合の通路部分:地役権設定
②中古住宅として販売される住宅に通路がある場合の通路部分:通路協定書の取り交わし
①について
新築の多棟現場では、現状は道路形状でも「通路(建築基準法上の道路ではない民有地)」ということがあります。
このような土地は、見かけは道路でも民有地ですので、動産物の放置等や工作物の設置等をしても文句はいえません。
しかしながら、運が悪いことに動産物を放置するような方に、物件を売却してしまったとします。
そうなると、多棟現場のもう一方の購入者には、大変なご迷惑をかけてしまいます。
そのような事態を防ぐために、あらかじめ通路部分には地役権を設定して「通路としての使用」を確実なものにしておけば良いと思います。
ちなみに「通路協定書ではダメなのか」というと、そういうわけではありません。
ですが、登記される「地役権」と、当事者同士しか分からない(締結した当の本人も数年たつと忘れてしまうかもしれない)「通路協定書」では、やはり心理的な重みは異なってくると思います。
したがって、新築多棟現場の通路部分は、原則として「地役権」設定をするのが良いというのが私の考えです。
②について
中古住宅として販売されるということは、おそらく「通路部分を既に使用している人がいる」ということになります。
この場合、後から不動産を購入した、いわゆる新参者が、もともと隣接地に住んでいる方に対して「地役権を設定したい」と申し出ても難しいのではないでしょうか。
当然、このような場合でも地役権を設定しておいた方が良い場合もあると思います。
その場合、まずは地役権設定の打診をし、断られてしまったら、「通路協定書の取り交わし」の打診をするという流れで話をもっていけば良いと思います。
通路協定書であれば「今後、入居する人に対して、しっかりと通路使用について説明することは、今現在通路を使用している隣接地所有者にとってもメリットである」旨の説明をきちんとすることによって、応じていただけることも多いはずです(実際にお互いにとってメリットである場合が多いです)。