社員が既得権を持つことで生じる弊害について

不動産会社は、初めは社長一人か、数名の社員とともに創業することがほとんどです。

そのような会社でも、少しずつ大きくなるにつれ、社員10名前後から社員ごとに役割分担ができてきます。

この役割が数年という時を経て少しずつ固定化され、かつ、さらなる会社の発展(社員が30名程度に増加)により、会社の中で、その特定の業務に関して「その社員より詳しい者はいない」という状態が作られます。

これの状態になると、その社員は「既得権」を持つということに至ります。

ちなみに、社員が特定の業務に精通することは、会社にとって良い方向に働きます。

その社員はやりがいと責任感を持って仕事をしてくれるでしょう。

そして、その状態で、さらに数年が経過します。

社長や、既得権を持った幹部社員たちの努力もあって、会社は従業員数100名前後の会社に成長します。

既得権を持った社員も会社の幹部社員として活躍していることでしょう。

ですが、この辺りで会社の成長は止まります。

社長もさらに会社を大きくしようと、支店を出す等しますが、かつてのように売上を拡大することができません。

なぜでしょうか。
今までとやり方を変えたわけではないのに。

これには、理由があります。

それは「既得権を持った社員の存在」です。

確かに従業員100名程度まで規模を拡大できたのは、既得権を持つ幹部社員たちのおかげでもあります。

そもそも幹部社員が全く育たない状況では、社長がいくら頑張ってもせいぜい社員30名程度が限界でしょう。

その段階をクリアするために、特定の社員に既得権を持たせ、幹部社員にしていくわけです。

ところが、この社員100名前後にきたあたりで弊害がおきます。

それは、「いちど既得権を持った社員は、その既得権を手放したがらない」ということです。

例えば、既得権を持つ社員が経理部長だったとします。

会社設立当初の10数年前に入社したその社員は、ずっと経理を担当してきたために、自分の権限で全てを決めることができる状態になっています。

こうなると社長も、その社員が何をやっているのか良く分からなくなります。

そして、ここで発生する問題があります。

それは「その経理部長が、時代に合った効率的な方法で仕事をしているとは限らない」ということです。

時代はどんどん進化しています。効率的なツールもどんどん開発されています。

さすがに法律違反になるような事態にはなっていないでしょうが、非効率でアナログな方法を採用したままだということも十分に考えられます。

ですが、既に既得権を持つ経理部長は、このやり方に慣れているので改めようとしません。

この会社の規模ですと、経理担当のスタッフも2名程度は在籍しているでしょう。
ですが、この経理担当スタッフは経理部長の言いなりの社員であることは間違いありません。

なぜなら、経理の経験が豊富で、元上場企業勤務の新しいやり方に精通した社員が、もし仮に入社したとしても、経理部長がすぐに辞めさせてしまうからです。

辞めさせてしまう理由は、言うまでもなく「自分の既得権が侵害される恐れがあるから」です。

既に既得権を持ってしまった社員は、自分の地位を脅かす存在を放ってはおけません。
その社員が頭角を現す前に潰すでしょう。

当然、頭角をあらわせる社員というのは、基本的に優秀ですので、転職先でいきなり上司と言い合いになるような面倒な事態は避け、さっさと自分の能力を高く買ってくれる企業に転職していきます。

そのようにして、この経理部長の既得権は守られるのです。

このような事例は、「営業部長」にも「調査・契約部長」にも同様の方法で現れます。

本来、会社の発展を考えるのであれば、自分の既得権など、自分よりも優秀な人を採用できた時点で手放して、自分はその人のサポートに回るというのが正解の行動のはずです。

ですが、そんなことできる社員がどれだけいるでしょうか。

ほとんどいないでしょうね。
そもそもそんなことができる社員というのは、独立を視野に入れているとしか思えません。

いずれ独立するから、自分がいなくなっても、せめて会社に迷惑をかけないように準備をしておくということで、自分の既得権を手放すという理屈です。

だからこそ、社長としては、できることなら特定の社員に既得権を持たせない方が良いわけです。

ですが、これがかなり難しい。
前述したように、創業当初は誰かに専門特化をさせる方がはるかに効率が良いからです。

そして、いちど既得権を持った人を降格させるというのも困難です。

既得権を持つ人を降格させると、その社員は退職する可能性が高まります。

そして、恐ろしいことに他の既得権を持つ社員からも退職を切り出される可能性が出てくるわけです。
いつか自分も同じ目に会うのでは、という不信感が芽生えてしまうわけですね。

ではどうすれば良いのか。

明確な答えはありません。
ですが、例えば次のようなやり方はいかがでしょうか。

担当を2名以上にして、専門特化させる。

例えば、「経理」のスタッフに「調査・契約」業務を兼任させる。一方で「調査・契約」のスタッフに、「経理」業務を兼任させる。
業務割合は、「7:3」くらいで良いのではないでしょうか。

割合を7くらいまで高めれば、十分専門特化できますし、一方で、自分の専門業務も、相手に3くらい握られていると既得権というところまでいきません。

いつ経理部長が辞めても、調査・契約部長が最低限の経理の仕事を理解しているため、会社が困るということが無いからです。

このようにして各社員の既得権を薄めていくというのも一つの方法です。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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