採用面接での候補者の「やる気がある」は信用してはいけない

私は、不動産業界の経営者の方をクライアントとしているのですが、その人たちから次のような話をよく聞きます。

「成長したい。不動産のことを覚えたいと言うから、採用したんだけど…。結局すぐに辞めちゃうんだよね…」

社員の採用時、社長としては、できるだけやる気がある人に来てもらいたいので、求人広告も少し厳しめの表現で作成します。

その結果、それなりにやる気がありそうな人が集まってきます。

その人たちは、全員「厳しいのは大歓迎」「やる気がある」「不動産の仕事を覚えたい」という趣旨の発言をします。

面接をしていると、それぞれ本当にやる気がありそうです。

その候補者の中から、一番見込みがありそうな人を採用するわけですが、いざ採用して仕事を教え始めると、結局すぐに辞めてしまうというのです。

その理由は何なのでしょうか。

結局、求人広告を見て応募してくるのは、サラリーマンになりたい人だということです。

いくら「やる気がある」といったところで、サラリーマンと経営者では、基本的なエネルギー量が全く異なると思った方が良いです。

そのため、いくら「やる気がある従業員」といえども、経営者の本気の指導についてこられるほどの「やる気」は持ち合わせていないのです。

そもそも「やる気がある」とは、本人の主観的な意見に過ぎず、数値で表せられるようなものではありません。

例えば、「やる気」を入れる入れ物があると考えてみます。

そして、従業員のやる気の入れ物が「おちょこ」だった場合、その入れ物にいくら「やる気」を注いだとしても、その量は、たかが知れています。
ですが、その従業員からすると「やる気MAX」ということになるわけです。

一方で、ちょっと疲れ気味でイマイチやる気が出ない状態の経営者の入れ物が「どんぶり」だとするとどうでしょうか。
疲れているため、どんぶりには3分の1程度の「やる気」しか残っていないとします。
ですが、この状態でも「おちょこ」に比べれば圧倒的な「やる気」の量になります。

でも、この場合のこの経営者の発言としては「今日は疲れてイマイチやる気が出ない」ということになるわけです。

このように「やる気がある」という発言は、全くあてにならないということです。

では、この「やる気がある問題」の解決策はあるのでしょうか。

まず考えられるのは、採用する側も「やる気」などという曖昧なものに頼らない採用をするということがあげられます。

どういうことかといいますと、求職者に「やる気があるか」と問えば、全員が「やる気がある」と答えるに決まっているので、そんなムダな質問はしないようにします。

その代わり、入社後の仕事については、具体的にどのようなことをしていくのかを面接時にしっかりと説明します。

その内容で耐えられるかを聞くのです。

当然仕事は忙しいですし、不動産調査ともなれば、多少危険が伴うこともありますし、虫もたくさん出ます。
そして、不動産業ですから、勉強しなければならないことはたくさんあります。

業務の基本的な流れを頭に入れるのに、不動産業未経験者で宅建士資格だけは持っているという人であれば、最低半年はかかるでしょう。
その間は先輩のアシスタント的な仕事をしてもらうことになるわけです。

加えて、早期にある程度のレベルで仕事ができるようになるためには、入社後の一定期間は、プライベートをある程度犠牲にして頑張ってもらう必要が生じます。

もちろんプライベートを犠牲にして頑張ってもらうことまで強制することはできません。

ですが、従来の面接での「やる気はありますか?」という質問の意図は、この「(一定期間は、プライベートを犠牲にして頑張れるくらい)やる気があるか」ということと大差ないと思います。

ですから、面接の際には、さすがに「(表向き)プライベートを犠牲にして頑張れ」とは言わないまでも、どう見ても「プライベートも使わなければ、追いつかないような仕事量、勉強量」を提示してあげれば良いでしょう。

これで、経営者と従業員(候補者)との間での「やる気」を一致させることができます。

ですが、これだけではいけません。

当然、従業員も「頑張る」わけですので、その頑張りに応じた対価を提供しなければいけません。

対価がない限り、頑張りは長続きしません。

これだけ頑張らせるのですから、従業員側から頑張りの対価が見えなければ、社長から見て「従業員が、いよいよ成長してきた」と思うようなタイミングで、従業員に退職されてしまうでしょう。

だからこそ、従業員が、「頑張って成長したその先に、自分がどのような状態になれるのか」のビジョンを示してあげる必要があるのです。

そもそも、経営者の「やる気はありますか?」の質問に「やる気あります。」と答える従業員で、本当についてこられる人(何も言わなくても勝手にプライベートを犠牲にして、仕事の勉強をするような人)は、経営幹部になる素質があります。

そのような「当たりくじ社員」を引くのを漫然と待っているのでは、お金も時間も無駄になってしまいます。

「やる気を一致させる」ことで、これらの無駄を大幅に削減することが可能になります。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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