先日、ある行政書士さんが、ある不動産の業界団体が主催するコンプライアンスセミナーで仰っていた話です。
「自分には、金融業界と不動産業界にクライアントがいて、金融業界の人はコンプライアンス意識がとても高いが、逆に不動産業界の人はコンプライアンス意識がとても低いということに驚かされた」
…不動産業界にいる人間としては、とても悲しいお話ですが、良く分かる話でもあります。
また、不動産業界で仕事をしている人間としては、普段から、とても気になっている発言があります。
それはそんなこと、みんなやってますよです。
例えば、こんなエピソードがあります。
・自社で仕入れをした土地がありました。
その土地の接面道路部分の側溝がグレーチングのままだったので、その土地に新築を建築する際に、グレーチングから蓋をかける工事を行うのですが、工事はお金がかかるので、グレーチングのままで行きたいという話があったのです。
その際に決めの一言に「そんなの他社は、みんなやってますよ」と、支店長が言ってくるのです。
私は、当時会社の社員にコンプライアンスを徹底させる最終責任者のような立場で仕事をしていましたので、「みんなって誰だよ。」と思いながら、話を聞いていたものです。
当然、グレーチングのままでは危険ですし、蓋をかけさせました。
また、次のようなエピソードもあります。
・土地の仕入を検討する際に、売主の専任の仲介業者からの要望で、売主に物件価格を50万円下げさせるから、「正規の仲介手数料+コンサルティング料50万円」を支払ってほしいというのです。
「そんなの他社は、みんなやってますよ。」と、これもまた別の支店長が行ってくるのですが、これもまた「みんなって誰だよ。」と思いますよね。
当然、この提案はお断りさせていただきました。
前述の支店長たちも、自身が提案してきた行為が、厳密にいえば宅建業法を含む法令等に違反するということは「うすうすは分かっている」のでしょうが、他社もやっている(と思いこんでいる)ので、当社もやっても問題はないだろうという認識なのでしょう。
つまり、その行為の何が、法令等に違反することになるのかについて「具体的に、しっかりと、分かってやっているわけではない」のです。
そのようなこともあり、平然と法令違反となるような行動をとってしまう。
これは、不動産業界にいると良く分かります。
そもそも不動産業界は、社員1~5人程度の零細企業が多いです。
そのため、社員を教育する仕組みを持っている会社はほとんどない。
加えて、日々数字に追われており、数字を作らなければ、会社の中で生き残っていくことはできません。
そのような環境ですので、コンプライアンスについて学ぶ機会を持てるのは、数字をしっかりと作って管理職になった営業社員か、もともと管理部門で入社した社員のどちらかになります。
ただし、営業管理職はコンプラについて学ぼうという意識がもともと希薄な傾向にあり、また、管理部門の人間もコンプラ以前の実務の勉強が膨大にありますので、しっかりと学んでいくのは、なかなか難しいのが現状です(そもそも管理部門など作れないという会社がほとんど)。
そうなってくると、不動産業界では、いったい誰がコンプライアンスについて学ぶところまで、到達できるのかと思ってしまいます。
ですが、これについては、意識が高い人から、コツコツと自分で勉強して積み上げて行くしかありません。
ちなみに前述の支店長たちの「みんなやってますよ」という発言に出てくる「みんな」ですが、営業担当者が普段接している地場業者ことを指していることがほとんどです。
地場業者の担当者というのは、本当に玉石混交で、なかには素晴らしいプロフェッショナルがいる一方で、不動産のことなどほとんど分かっていない人(それでもお金儲けだけはうまい人)が混在しています。
割合にすると前者が1%(未満)、後者が60%、あとの人はそれらの中間に位置しているような感じだと思います。
当然、1%しかいませんので、前述の支店長たちでさえ、なかなか知り合う機会がない人たちです。
また、たまたま知り合ったとしても、この1%の人たちと、前述の支店長では、コンプラ意識等に対する考え方が大きく違いますので、あまり仲良くなることもないでしょう。
よって、大きな影響を受けるところまではいきません。
結果として、1%の本物の不動産のプロフェッショナルは、プロフェッショナル同士で集まるか、不動産業界で孤軍奮闘することになります。
一方で、前述の支店長を代表する、従来型の不動産業界の人は、その圧倒的な数を背景に「不動産業界の、何となく悪いイメージを作っていく」ということになります。
ですが、どうでしょうか。
不動産業界も、かつてのようにラクに稼げる業界ではなくなりましたし、これからもどんどん稼ぎにくい仕事になっていくことは間違いありません。
ラクに稼げる業界ではないということは、「単なる金儲け主義の人たち」には旨味がない業界になりつつあるということです。
このような時代になることで、前述の支店長たちのような人種はこの業界から姿を消すのかもしれません。
そして、そうなって初めて、本物の不動産のプロフェッショナルたちが、お客様のために、その磨きぬいた知識と経験を駆使して活躍できる業界になるのかもしれません。
そうなれば、不動産業界も、コンプライアンスありきで仕事を組み立てていくことが、当たり前となるのかもしれません。