手付金についての注意点

不動産の契約の際は、手付金の支払いが行われるというのが一般的です。

この手付金をいくらに設定するかですが、特に支障等がなければ、売買価格の1割とすれば良いでしょう。

ただし、売主が宅建業者の場合には、手付金の額や授受の時期等に制限がありますので、その点につきましては、宅建業法に抵触することがないよう気を付ける必要があります。

さて、手付金ですが、売主の状況によっては支払いを行わないという選択をすることも重要です。

手付金の支払いを検討すべきときとは、具体的には次のような場合です。

・売買価格よりも抵当権等の残債の金額が上回っている。
・売買価格よりも根抵当権の極度額の方が上回っている。

理由としては、売買代金を充当しても抵当権を抹消できない可能性があるため、しっかりと抹消できることが確認できるまでは手付金の支払いは行わない方が良いでしょう。
また、根抵当権については、確認時の残債額が少額であったとしても、極度額まではいつでもお金を借りられるため、極度額が売買価格を上回っているような場合には、手付金の支払いはやめた方が良いです。

なお、売主に手付金を渡すのが怖い場合は、仲介業者に預かってもらうという方法もあります。
この場合、仲介業者から手付金の預り証を受け取りますが、その預り証の内容もしっかりとチェックしておく必要があります。
私が宅建業者(そのときは買主業者)に勤務していた際に見た手付金の預り証で、「売主・買主のどちらの責めに関わらず、契約が解除になった場合、仲介業者は、仲介手数料分の金額を控除した残りを買主に返還する」という趣旨の内容が記載された預かり証を出してきた仲介業者がありました(当然「解除についての責任がない場合は手付金等の一切の金銭を支払わない」旨の内容に修正をしてもらいました)。

なお、売主宅建業者の場合は、次の宅建業法の規定にも注意が必要です。

①完成品の場合:売買価格の10%以下、かつ1,000万円以下まで。未完成品の場合:売買価格の5%以下、かつ、1,000万円以下まで。
②手付金は売買価格の20%まで。

①については、この金額を超える場合は、保全措置が必要になるということです。
ただし、実際に保全措置をしているケースなど見たこともありませんので、実情の上限額だと思っておいても問題はなさそうです。
なお、この手付金等の保全措置の件ですが、こちらの金額には「手付金のほか、内金等のお金も含まれ、手付金等」となっているのに対し、②の金額については「手付金」のみの金額になっているのが混乱するポイントだと思います。
ですが、なぜこのようになっているのか理由を知っておけば、混乱をせずに済みます。
理由としては、②については「不動産流通に不慣れな買主(非宅建業者)が、あまりに高額の手付金を支払ってしまっているために、手付解除に制限がかかってはダメだ(高額過ぎる手付金の放棄はハードルが高い)ということで、内金等を含めない」ということになっています。
それに対して、①については「不動産流通に不慣れな買主(非宅建業者)のお金は、手付金だろうが、内金だろうが、その名目に関わらず、合計金額が一定額を超えたら売主(宅建業者)は全て保全措置を取らなければならない」ということになっています。
結局は「非宅建業者である買主を保護する」という宅建業法の根底にある考え方に則っているということです。

また、売主が宅建業者の場合の手付金の規定については、「手付について貸付その他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為の禁止」というものがあります。
これは、売主宅建業者が、非宅建業者の買主に対し、手付金を貸してあげたり、遅らせてあげる等することで契約をさせるということを禁止しており、一見すると買主に有利とも思える文言ですが、結局は「非宅建業者であり、不動産流通に不慣れな買主自身が、手付金を用意する間によく考えて契約してほしい」という買主保護の規定になっています。

ただし、手付金を貸してあげたり、遅らせるのはダメなのですが、「手付金の減額は問題ない」ので、どうしても手付金は少額しか用意できないけど物件が欲しいという買主であれば、手付金を減額して対応してあげることは問題ありません。

その場合、あまりに少額な手付金の額では、買主からの手付解除がされやすくなりますが、仕方がないかもしれないですね。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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