あえて低価格で勝負する方法

不動産業においては、仲介手数料の上限額が宅建業法で定められています。

なお、定められているのは上限額であって、価格はいくら下げても問題ないわけです。

そのため、集客を目的として「あえて低価格路線で勝負する」という業者が出てきます。

ちなみに、私は、行政書士としても仕事をしていますが、行政書士業界でも同様の問題が起きています。

同様の問題とは、「低価格路線で勝負する」という事務所が出てくるということですが、行政書士業界の方が、不動産業界よりも状況は悪いように感じています。

状況が悪いとは、すなわち「単に他の事務所よりも安い」ということのみを打ち出して集客をしようとする事務所が多いという意味なのですが、不動産業界よりも行政書士業界の方が状況が悪い理由は、次の2点があげられます。

①不動産会社よりも行政書士事務所の方が、ビジネスが分かっている人が少ない。
②行政書士業務が、他の士業資格のフロントエンド商品に利用されている。

①不動産会社よりも行政書士事務所の方が、ビジネスが分かっている人が少ないについて

不動産業界で働く人は、海千山千の猛者が多いので、そもそも自分の利益を下げるような選択を積極的にする人は稀です。
そもそも宅建業法で定められた上限額を、あたかも法定の金額とも取れるような説明をして、当然に請求している会社もあるでしょう。

このように、ビジネス感覚が研ぎ澄まされている人たちが多い業界ですので、低価格路線の会社がなかなか出てこないというのは納得です。

一方で、行政書士業界です。
行政書士は、先生と呼ばれることも多い仕事であり、また、かつては仕事の報酬額は法律で決められていました。
そのため、不動産業界と比べてビジネスというものを勉強しない事務所が多かったのです。
ちなみに、行政書士業界は、今では、報酬額は各事務所で自由に決められるようになっています。
そのため、ビジネス感覚に疎い行政書士から、どんどん値下げをして集客を行うという状況が発生しており、値下げを良しとしない事務所も、多かれ少なかれその流れに巻き込まれているような状況です。

当然、IT化や組織化等により、業務の効率化を行うことで、価格を下げられるということもありますが、このような事務所は稀です。
だいたいの事務所は、価格を下げることで、集客をしようとしていることは明らかであり、私はこれを「無策の低価格」と呼んでいます。

②行政書士業務が、他の士業資格のフロントエンド商品に利用されているについて

行政書士業務を一番の集客商品にしているのは税理士でしょう。
税理士資格を持っていると、行政書士の登録もできるようになるため、行政書士登録をする税理士も多いのです。
そして、行政書士業務の中の会社設立業務をフロントエンド商品とし、バックエンドで税務顧問を取るというビジネスを展開しています。
会社設立は、行政書士業務では、かつては15万円程度の報酬額でしたが、現在では、税理士が無料に近い報酬額で請け負っているという状況です。
ちなみに、税理士は、その後の顧問料で少しずつ回収をするというやり方を取っています。

上記の①の事例は、単に行政書士業界全体の仕事の価値を不当に貶めるものだと思いますが、②のような仕事の仕方であれば、問題はありません。

ちなみに、話は逸れますが、本来、②の状況は、税理士が行政書士の主力業務の一つである会社設立業務を不当に安くして行政書士業界を食い物にしているとも取れますが、そのようなことは、ビジネスの世界では良くあることでしょう。
そのような状況であっても、強い行政書士事務所というのは、簡単に食い物にできないような強い業務を独自で作るなどし、処理しきれないくらいの仕事量と、十分過ぎる利益を上げています。

また、強い行政書士事務所というのは、税理士の先生からもたくさん仕事のご紹介をいただいています。
要は、他士業のフロントエンドに利用されるような業務を主力業務にしているような行政書士事務所がビジネス的に弱すぎるというだけのことなのです。

話しを元に戻します。
前述のように、不動産業でも「低価格路線で勝負」をしようとする業者が、インターネット上でちらほら散見されるようになりました。
その低価格路線が、上記の①に対応する「無策の低価格」だった場合、業務を低価格にする前にやるべきことがあるはずです。
この場合のやるべきこととは、例えば次のようなことです。

(1)集客力を高める努力をする。
(2)専門力を高める努力をする。
(3)業務効率化のための努力をする。

(1)集客力を高める努力をするについて

まず初めにやらなければならないことは、集客力を高める努力をするということです。
行政書士業界でも、強い事務所というのは、例外なく集客力が高いです。
集客力というのは、容易に高められるものではありませんが、集客力が高い業者の料金は、他の業者よりも比較的高めであることが多いです。
また、集客力というものは、それ自体が専門能力であり、その知識自体が商品として販売できるようなものですが、経営者としては必須の能力となりますので、高め続ける努力をしなければなりません。

(2)専門力を高める努力をするについて

不動産業も専門特化することによって、他社では容易にできない業務能力を身につけることを目指すべきです。
特に、これからの時代は、大手の仲介会社が、いわゆる普通の誰でもできるような取引は、どんどん取って行ってしまうものと思われます。
そのような状態ですので、他社が容易にできないような案件の処理ができるようになることを目指して、日々努力をしていくべきでしょう。
個人的には「相続専門門の不動産会社」という業態はお勧めです。
なお、専門能力を高めることは、(1)の集客力アップにもつながります。

(3)業務効率化のための努力をするについて

これは単純な話ですが、業務効率化ができれば、その分だけ利益率が上がります。
そのため、業務効率化はいつでも取り組んでいかなければなりません。
特に長く同じ業務に取り組んでいると、非効率な仕事のやり方で慣れてしまっているということがおきますので、「もっと効率よく仕事ができる方法はないか」ということについて定期的に検討する時間を設けると良いでしょう。

このように「無策の低価格」に入る前に、経営者であればやるべきことをやる努力が必要になるわけですが、もし仮に上記の(1)から(3)までの方法をやり尽くしている場合は、上記の②の不動産の仲介手数料をフロントエンド商品にするというやり方もあり得ると思います。

このような方法を取る場合は、仲介手数料を低価格にして、他社と差別化をはかるという方法もあり得ると思います。

具体的には、「外国人のビザ等を専門業務とする行政書士事務所が、不動産賃貸の仲介手数料を割引にするような場合」が考えられると思います。

ただし、②のパターンのように戦略的に仲介手数料を割引にするような業者は、不動産業者ではあまり考えられませんので、不動産業界でも多くの業者では、①の無策の低価格なのではないかと思います。

それでも、あえて「お客様の利益のため」と考えて、自社の利益をお客様のために還元したいというのであれば、やはり上記の(1)から(3)までの能力を高め続けることによって、利益率自体が高まるはずですので、その分だけ自社の利益を削ることが可能になるとは思います。

結局、「無策の低価格」では勝負ができず、業界全体の苦しめるだけの結果になりますので、やめるべきです。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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