今回の記事は創業計画書についてです。
創業計画書といえば、不動産業界では、不動産会社を起業するときなどの際に日本政策金融公庫から融資を受けるときに作成しなければならないものというイメージの方も多いと思います。
ですが、融資を受けない人も作成したって良いのです。
いや、どうせなら独立開業する人は全員作成した方が良いでしょう。
創業計画書の作成にあたり、日本政策金融公庫が発行する「創業の手引」の中の「創業計画書作成の重要性」には、次のような記載があります。
【創業計画書作成の重要性】
①事業の内容や特徴を整理できる。
②事業の強み・弱みを整理できる。
③欠けていた視点に気づくことができる。
④関係者からの協力を得やすくなる。
⑤創業後に、見込み違いの点や修正すべき点にすぐに気づくことができる。
上記のうち、単に不動産の仲介業で独立を考えているのであれば、既存でいくらでもある業態ですので、①の「事業の内容や特徴を整理できる」については、あまり考える余地はないと思います。
ただし、不動産業の中でも「相続専門の不動産会社」に特化したり、「店舗の賃貸仲介専門の不動産会社」に特化する等により「お客様層を少しズラす」ことで、他社との差別化をはかろうとする場合には、①の「事業の内容や特徴を整理できる」ことが重要になってくるでしょう。
「②事業の強み・弱みを整理できる」については、普通の仲介業で開業する場合は、ありふれた業態ですので「事業(会社)の強み・弱み」というよりかは「自分(経営者本人)の」とした方が説明しやすいかもしれません。
「③欠けていた視点に気づくことができる」については、仮に普通の仲介業とは「お客様層をズラす」場合には、もしかすると「そもそも食べていけるだけの十分な市場規模がない」というような視点に気付けるかのせいもあります。
「④関係者からの協力を得やすくなる」については、創業計画書を作成することによって、他人に対して自分の事業を説明しやすくするということですので、とても良いと思います。
また、できるだけ短い文章で相手に自社の強み等が説明されたワードを探しておくと、販促資料を作る際にも非常に役立ちます。
「⑤創業後に、見込み違いの点や修正すべき点にすぐに気づくことができる」についですが、創業計画書を作成する際には、売上を自分が計画していた額の半分、経費を自分が計画していた額の2倍とし、厳しい計画設定をしておくと、創業期の資金ショートの確率をかなり減らすことができます。
次に、日本政策金融公庫で使用している実際の創業計画書の中からポイントとなる部分を見ていきます。
創業計画書に記載されている項目は次のとおりです。
①創業の動機
②経営者の略歴等
③取扱商品・サービス
④取引先・取引関係等
⑤従業員
⑥借入の状況
⑦必要な資金と調達方法
⑧事業の見通し(月平均)
⑨自由記述欄(アピートポイント、事業を行ううえでの悩み、希望するアドバイス等)
①創業の動機について
公庫の記入例には、次の例が記載されています。
「自分の経験を生かしたい」
「かねてから自分の店をもつことが夢だった」
この理由でも悪くはないと思います。
実際、他に創業の理由があるとしても、結局は前述の2パターンの理由に集約されそうな気もします。
例えば次のような感じです。
「一人ひとりのお客様に合わせたサービスを丁寧に行いたい」
というものだったとしても、結局は「自分の経験を生かしたい」や「自分の店を持つことが夢だった」と根は同じだということです。
これは「もっとお金を稼ぎたい」という目標だったとしても変わらないでしょう。
②経営者の略歴等について
動機の次に略歴の記載欄があるあたり、お金を貸す側の公庫でも、いかに「独立開業希望者のこれまでの経歴を重要視しているか」が分かります。
ここでは、ざっくりと「〇〇不動産入社」「〇〇不動産退社」「△△不動産入社」「△△不動産退社」と記載するのではなく、〇〇不動産では主にどのような業務に従事したのか等、自分の今までの経験が独立後どれほど役に立つのかについてアピールする視点で記載していきます。
③取扱商品・サービスについて
このカテゴリーには、さらに細分化された4つのカテゴリーがあり、それぞれ次のとおりです。
・取扱商品・サービスの内容
・セールスポイント
・販売ターゲット・販売戦略
・競合・市場など、企業を取り巻く状況
不動産は、そもそもこの世でたった一つのものを扱いますので、上の2つについては書きにくく、それぞれ「お客様による」「物件による」というようなイメージの回答にならざるを得ないのではないかと思います。
ですが、特別にコンセプトを持った不動産会社を始めるのであれば、そのコンセプトに合ったお客様像があるはずですので、そのお客様像を想定した答えを記載すればなお良いです。
また、販売ターゲット・戦略についても、特別のコンセプトを持った不動産会社を始めるのであれば、そのコンセプトに沿ったお客様を記入するということになります。
競合・市場、企業を取り巻く状況ですが、通常不動産業であれば、「厳しい」と言わざるを得ないでしょう。
ですが、そのような中にあっても勝てる企業があるのは事実ですし、勝つためにこのような作業をしていますので、厳しいことを認識したうえで、「ではどうするのか」について考えていかなければなりません。
④取引先・取引関係等について
この欄については、すでに決まっていれば記載していけば良いです。
⑤従業員について
従業員の人数です。
従業員は固定費になりますので、採用は慎重に行いましょう。
また、家族(夫婦)や友達と事業を始める方もいますが、夫婦で始めると夫婦関係が悪化する可能性がありますし、友人同士で始めると友情にヒビが入ったりする可能性がありますので、これらの人を選ぶ際には、慎重に選ぶようにしましょう。
家族や友人を採用するのではなく、全くの赤の他人を採用する方が、組織における上下関係がしっかりと構築できやすいということは良くあります。
ただし、不動産業での起業の場合、もし経営者本人が宅地建物取引士資格を持っていなければ、必ず宅建士資格を持っている人を雇う必要がありますので、その宅建士資格所有者が経営者のいうことを聞かなくなる恐れがあります。
その宅建士からすれば、「自分がいなくなれば社長が困る」ことが容易に分かるので、強気に出られるというわけです。
このようなリスクもありますので、不動産会社を始める方は、経営者自身が「宅建士資格」は持っておくようにしましょう。
⑥借入の状況について
借入があるようでしたら、余すことなく全て記載をしておきます。
⑦必要な資金と調達方法について
いわゆる貸借対照表の考え方で記載をしていく欄です。
購入する資産を主に記載していきます。
購入するものあまりにも少ないと「融資を受ける必要がないのでは?」と、融資の担当者から思われてしまいます。
また、過度に高級な車等の購入を検討しているような場合も、融資担当者に拒否をされる原因となってしまいます。
ここでは、必要な額を必要なだけ請求するようにしましょう。
そのためには、あらかじめ「何が必要なのかを把握しておく」必要があります。
⑧事業の見通し(月平均)について
いわゆる損益計算書の考え方で記載をしていきます。
⑦の貸借対照表と⑧の損益計算書は、経営者となるのであれば、今後もとても大切な資料となりますので、分からない方は、どこかのタイミングで簿記を勉強をしておくと良いです。
ちなみに、勉強は簿記でしますが、わざわざ簿記の資格を取得する必要はありません。
勉強方法ですが、まずは簿記3級を自分で勉強して、続いて簿記2級のうち「商業簿記」だけを自分で勉強すれば十分です。
経営者はこれ以上簿記の勉強はやる必要ありません。
これ以上簿記を深掘りするくらいなら、もっと別の件について勉強時間を割かなければなりませんので、簿記の勉強はこの程度で辞めておきましょう。
⑨自由記述欄(アピートポイント、事業を行ううえでの悩み、希望するアドバイス等)について
自由記入欄ですので、好きなことを自由に書けば良いです。
説明は以上です。
いかがでしたでしょうか。
創業計画書には、これだけの情報を検討する欄がありますので、これらの欄を一つずつ埋めていくだけでも相当いろいろなことが検討できるはずです。
ですから、創業融資を利用しない人も、不動産業の開業をしたいと思ったら、いちど作成してみたらいかがでしょうか。