実力もなしに調子に乗っている社員に、さらなる成長を促す

たいした実力もないのに「自分は仕事ができる」と思っている。

このようなタイプの社員は、私が仕事で、不動産調査や重説・売契の作成指導をしていると、よくいます。

営業担当者でいえば、会社や上司のおかげで成績を出させてもらっていることに気付かずに、自分の実力だと勘違いして調子に乗るタイプがこのような人にあてはまるでしょう。

自分が仕事ができると思ってしまう背景を考えると「自分より優れた人に出会う場が少ない」ということがあげられと思います。

人間は「自分より優れた人がこの世にはたくさんいるのだ」と気付けば、自然と謙虚になっていくものです。

でも、人に仕事の指導をしていて難しいと感じるのは、「ある情報を伝えようとしても、相手の力量までしか情報は伝わらない」ということです。

10の情報を伝えようとしても、相手のレベルが5であれば、5までしか情報は伝わらない。

このようなことは、仕事では、とても多く発生します。

例えば、ある会社にかつて在籍していた「とても能力の高い人」が作成した契約書の文言があるとします。
※この人を仮に「レベル10」だとします。なお、普通に不動産業界で働いている人のレベルは、だいたい3から4程度で、このレベルになれば、特にトラブル要素がない物件の仲介は問題なくできるというようなイメージです。

そのとても能力が高い人が作った契約書の文言は、不動産を流通させる際に検討が必要になる法令等を、いろいろな角度から検討し尽くした、過不足のない最高の特約文言だったします。

その文言は、レベル1のド新人だって、いつでもコピペして当たり前に使用できるわけです。
なお、ド新人ですから、「その文言が生まれる過程で、さまざまな法令等の検討がなされて生み出されている契約文言」だということは当然知りません。

でも、その新人も、その後、一生懸命頑張って順調に成長し、10年後にレベル8まで成長したとします。

そのときに初めて気付きます。

「あ、この特約文言って、ド新人のときから当たり前に使ってきたけど、自分がつい最近勉強したことまで反映されている…。こんなに深く検討されて作成された文言だったんだ!」と。

そして、レベル8くらいにもなると、次のような考えもできるようになっています。
「もしかしたら、自分が気付いていないもっと深いところまで、検討されているかもしれない。」

なぜそのように思えるかというと、レベル8まで到達する過程で、膨大な勉強をし、多くの実務経験を積み、いろいろな人を接する機会があったからです。
その過程で、自分の不動産知識に関しては、ある程度自信があるものの、まだまだ自分よりも上がたくさんいることを十分に分かるようになっています。

だからこそ、ウソ偽りなく、謙虚でいられるようになる。

なお、実際に問題となるのは、レベル8の人ではありません。
問題となるのは、もっとレベルの低い人、不動産業界にたくさんいる一般的なレベル(3から4程度)の人です。

ちなみに、不動産業界には、仮に業界歴20年を超えているような人だったとしても、レベル3から4程度の人はたくさんいます。
なぜ、このような人でも業界内で生き残っていけるのかと言いますと、不動産業の場合、お客様が不動産の売買経験がない(お客様の不動産に関するレベルは1)という業界の特殊事情があるからです。

なお、さすがに業界歴20年超でレベル3から4程度しかない人に対して、いまさら成長を促すのは不可能だと思います。
ですが、例えば業界歴2年程度で、レベル3まで上げたことで調子に乗っている人なら「まだ修正は可能」だと思います。

ちなみに、後者のタイプの人は、もともと未経験で不動産業界に入ってきて(力量1)、何も分からない状態から、ある程度一般的な仕事はできるようになった段階で、「自分は仕事ができるようになった」と勘違いをしているだけの人です。

この勘違いの状態を放置すれば、この人はこれ以上成長せず、そのうち不動産業界からいなくなるか、生き残ったとしても業界歴20年超にもかかわらずレベル3から4の人になってしまう可能性は高いでしょう。
だからこそ、このようなタイプの人には、まだ業界歴が浅い段階で「自分よりも優れた人はいくらでもいる」ということに気付かせてあげると良いです。

ただし、世の中には「レベル3でも別にいい。仕事で特別頑張りたくない。給料も現状で満足」という人も結構いるという点には注意が必要です。

このような人には「原則として仕事に関するアドバイス等は、何を言っても響かない」傾向にあります。
その場合、社長としては、この社員に期待をしてたくさんアドバイスをしても「社長自身が疲弊する」だけとなる可能性が高いので注意が必要です。

疲弊しないためには、「あくまでも、できうる限りのアドバイスはするが、結局、力量を上げるための努力ができるのは本人だけ」なのだということを、常に念頭に置いて社員と接していきましょう。

そして、社長としては、力量を上げたいという人には「積極的に支援」をしてあげ、また、現状維持を望む人に対しても、その考えを尊重し、それなりの待遇とする。

という感じで使い分けて接してあげれば良いと思います。

なお、「力量を上げたい」と口にする人でも、社長が考える「力量を上げたい」と、従業員等が考える「力量を上げたい」では、レベル(熱量)が異なるということが多いので、その点についても注意が必要です。

社長というのは、原則として、熱量が高い人が多いです。
したがって、社長と従業員の熱量の差は、もともと圧倒的に違っていたりします。

ですから、社長としては、従業員の「レベルを上げたい」というを鵜呑みにするのではなく、どの程度の期間をかけて、どの程度のレベルになりたいのかということについて、正確に把握する必要があります。

その部分の認識を一致させないと、従業員が社長の熱量についてこられずに、最悪の場合、退職してしまうという結果になってしまうということにもなりかねません。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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