採用で「経験者」を面接する際の、応募者の「知識量」の見極め方について

不動産業界では、日ごろから積極的に勉強をし、知識を増やし続けている人というのは、少数派(おそらく1%未満)だというのが実情でしょう。

とはいうものの、不動産業界で10年とか20年とか仕事をしていると、「知識とは言えない雑学」のようなものをたくさん持っている人は多いです。
一方で、不動産業界歴は5年程度でも、しっかりと勉強をして「知識の積み上げ」ができている人もいます。

そこで今回は、不動産会社の社長が「社員を採用するとき」等に活用できるように、目の前の人(採用候補者)が、この「雑学」しか持たない人なのか、しっかりとした「知識」を持っている人なのかについて説明していきたいと思います。

この「雑学」と「知識」ですが、違いはなかなか分かりにくいものです。
特に社長自身があまり不動産の勉強をしてこないまま営業力だけで競争に勝ち抜き、不動産会社を立ち上げているような場合や、不動産業界未経験のまま不動産会社を立ち上げたような社長だと、目の前の相手が、雑学レベルの知識しかもたない人なのか、本当に役に立つ知識を持つ人なのか見抜くのは難しいでしょう。

社長自身があまり勉強していない場合、単なる雑学ですら知識と受け止めてしまう可能性もあるからです。

また、業界歴20年の営業マンは、業界内で20年も生き残ってきただけのことはあって、雑学程度の知識しか持たない人であったとしても、あたかも「よく知っているように見せる」という技術に長けていたりします。

一方で、業界歴は5年程度と短いものの、知識の積み上げができている人は、「間違った説明はできないと思うあまり、説明が難しくなり過ぎたり、細かくなり過ぎたりしてしまう」という傾向があります。

したがって、短期的には「簡潔で分かりやすい説明ができる」ということで、業界歴20年の営業マンが勝ってしまうということがおこります。

ちなみに、話が脱線しますが…。

雑学と知識は「何もトラブルがない物件」では、一切差が出ません。
だからこそ、雑学しか持たない営業マンだったとしても、何とかこの業界で生き残っていけるわけです。

ですが「トラブルが内在する物件」の取引では、「雑学」は全く役に立ちません。
むしろ、トラブルが発生した後も、口先だけで対処しようとして、より問題を大きくしてしまうということがおこります。

なお、「トラブルが内在する物件」の取引の場面では、知識を積み上げている担当者であれば「トラブルの顕在化」をはかれる可能性が高まります。
トラブルの顕在化とは、物件を見たときに「この物件はこのような問題がある」とか「このような問題が発生する可能性が高い」と、あらかじめ問題点(又は問題になりそうな点)に気付き、売主や買主に対して、事前に取引条件の確認を行うことができるということです。

ただし、いくら勉強を積み重ねていたところで、全てのトラブルを見抜けるようになるわけではありませんので、やはり引渡し後に物件に問題が現れ、トラブルになることはあります。

トラブルが発生した場合、雑学しか持たない営業マンは、まずは口先だけで対処しようとするため、トラブルの解決に時間がかかり、最悪の場合、トラブルが大きくなってしまうということがおこります。
なぜ口先だけの対応になるのかといいますと、そもそも雑学程度の知識しか持っていないので、実際のトラブルの際に、具体的な対応策が思いつかないからです。
さらに、過去に何度か「口先だけでトラブルを乗り越えることができた」という経験もあるため、このような対応になるのです。

一方で、しっかりと知識の積み上げを行っている担当者の場合、トラブルが起きた際の対処は迅速です。
対処が迅速なのは、「対処方法が分かっているから」に他なりません。

まずトラブルの内容を把握し、契約書に記載の内容で処理できるものであれば、契約書を使って処理をしていきます。

その際、物件の瑕疵とも言えないような問題であれば「特に何の対処も行わない」ということもあります。
例えば、買主から「窓が結露する」というような報告を受けた場合、「どのような製品だって、結露を完全に防げるわけではない」旨の説明をして、できるだけ結露しない方法を教え、買主に納得してもらうという方法になるかもしれません。

このような事例の場合、雑学しか持たない営業マンでも対応できるでしょうから、雑学しか持たない営業マンにとっても成功体験となり、まずは、口先だけで対応するということになるのでしょう。

話を元に戻します。

このように「雑学しか持たない営業マン」と「知識の積み上げをしっかりと行っている営業マン」では、仕事の内容に差が生じるのですが、雑学しか持たない営業マンなのか否かを見抜く方法があります。

それは、「契約書の内容について、詳細な説明をしてもらう」ということです。

例えば「重説のこの記載は、なぜ、このような記載となるのか?」というような具体的に、実務に則した質問を重ねていくということです。

「なぜ?」「なぜ?」と質問を重ねていくことで、より本質的な「知識」の面にまで掘り下げていくことができます。

この質問にどこまで答えられるかで、その人の知識レベルを伺い知ることができます。

また、別の方法として「契約不適合責任」について説明をしてもらうというのも有効な方法です。

契約不適合責任の説明は難しいので、しっかりと説明できる人はあまり多くはありません。

ですが、しっかりと知識の積み上げを行っている人であれば、契約不適合責任の勉強は必ずしているはずであり、答えられる可能性は高まります。

ちなみに、未経験で不動産業界に入ってきた場合、実務と知識の積み上げの両方をどれほど頑張って取り組んだとしても、本質的な部分まで学習が及ぶのに最低でも5年は必要になるでしょう。

これは、私の今までの経験ですが、不動産業界未経験だったとしても、一生懸命仕事に打ち込む人の場合、2年から3年で通常の実務に支障がないレベルになります。

その段階で、満足して成長が止まる人もたくさんいて、このような人が業界歴20年にもなると、不動産の雑学をたくさん蓄えた人となっていきます。

ですが、「通常の仕事に支障がないレベルになったこと」に満足せず、更なる知識の積み上げを行う人の場合、ある程度の知識の積み上げができるようになるまでに、そこから「最低でも」さらに2年から3年はかかります。
キャリアを合計すると、最低でも5年程度の期間は必要だということになりますが、このレベルでも、しょせんは「不動産業全体で必要となる(今後、積み上げるべき)知識の全体像が、かすかに見えるようになった」という程度のレベルであり「不動産を本当に極める」というのであれば、一生勉強を続ける必要があります。

ですから、不動産会社の社長が、自分の会社を大きくするという希望があるのであれば、どこかの段階で「自分の右腕となる幹部社員」にその役割を担わせなければならないということになるのです。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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