不動産業における効率的な法律の勉強法

不動産は法律でがんじがらめにされています。

なお、不動産自体もそうなのですが、不動産会社(宅建業者)も宅建業法で細かく規制がなされています。

そのため、本来、不動産会社は、宅建業法をはじめとする法令については、しっかりと勉強をしておかなければならないわけです。

ですが、しっかりと勉強といってもなかなか簡単には行きません。

そこで、今回は、不動産業者が勉強をしていくためのコツについて説明をしたいと思います。

ちなみに、不動産業界にいる多くの人が、法律の勉強など宅建試験を最後に全くやっていないという状況だと思います。

それでも、普段の仕事を「何とかやれている」のは、全宅連や全日、FRK等の中にいる「不動産流通に関する法律関係を深く理解している人たち」が、重説・売契の雛形を作成してくれているからです。

これらの雛形を使用して、不動産業者は普段からスムーズに不動産を流通させられているわけです。

ですが、これらの雛形を使用した状態で不動産流通を滞りなく行えたからといって「自分は不動産流通のプロである」などと思ってはいけません。

不動産流通のプロとは、本来これらの雛形の文言の基礎になっている「条文等」を知ったうえで、雛形の文言を理解できていなければ、本当のプロであるとはいえないと思います。

そこに、不動産業界の第一線で活躍することを願うプロ志望者が、不動産に関する法律を勉強していくためのヒントが隠されているわけです。

そのヒントとは、自分が普段仕事をしていて、よく使う法令から勉強していくということです。

例えば、民法の勉強をする場合、不動産業者であれば、契約不適合に関連する部分が重要になってきます。

そこで、契約不適合に関連する法律関係を整理していくという流れです。

具体的には、次のようになります。

①民法の条文の中から、法律不適合に関連する条文を抜き出す。
【参考条文は末尾に記載しておきます】

・民法562条:買主の追完請求権
・民法563条:買主の代金減額請求権
・民法564条:買主の損害賠償請求及び解除権の行使
・民法566条:目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限

まずは、この辺りの条文を抜き出します。

また、民法564条に記載されている条文も抜き出します。

・民法415条:債務不履行による損害賠償
・民法541条:催告による解除
・民法542条:催告によらない解除

これで、契約不適合責任に関係する民法の条文はひととおり抜き出せました。

ですが、これで終わりではありません。

もし仮に売主が宅建業者であり、買主が非宅建業者である場合は、宅建業法による契約不適合があった際の条文が重要になってきます。

・宅建業法40条:担保責任についての特約の制限

そして、売主が宅建業者か否かに関わらず、新築住宅の場合は、次の条文も重要になります。

・品確法95条:新築住宅の売主の担保責任

これらの条文を全て抜き出して契約不適合責任を全体的に整理しておけば、契約不適合責任に関する「基礎知識」を身につけることができます。
ただし、条文の整理の段階では、あくまでも基礎的な整理ができたという段階です。
更に深く内容を理解しようとすると、条文それぞれについて深く勉強する必要がありますし、損害賠償等の要件等にまで切り込んでいく必要があります。
ですが、さすがにそのあたりの深さになると、不動産業者が勉強をしていくには効率がわるすぎますので、そのあたりは弁護士等の法律の専門家に任せて、不動産会社の担当者は、重説・売契に登場する全条文について、ここで紹介した勉強をやるようにしましょう。

もし仮に民法だけ勉強していく、宅建業法だけ勉強していくというような勉強方法をした場合、後で関係する条文を合体させる段階で、理解の難易度が急上昇し、「結局良く分からない」という状況に陥るでしょう。

これは、資格試験を使用して法律の勉強をしている人が陥りがちなミスでもあります。
資格試験は法律を絡めることなく、それぞれ単独の法律についての問題が出されるのが基本ですので、実務では使用できないことが多いです。

しかしながら、ここで紹介した方法での法律の勉強は、「そもそも実務から入っている」ため、ムダになることは極めて少ないです。

このように実務ベースで勉強をしていき、目につく書類の全てでこの勉強法をやり終えた後に、まだ余裕があれば、民法だけ勉強していく、宅建業法だけ勉強していくというような、単一の法律の勉強を行っていけばよいでしょう。

この時点で、すでにかなりの知識が身についているはずですので、単一の法律の勉強に移行した場合でもスムーズに勉強ができるはずです。

【参考条文】
読みやすくするために、一部追記してあります。
◎民法(562条):買主の追完請求権
1.引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2.前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

◎民法(563条):買主の代金減額請求権
1.前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2.前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3.第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

◎民法(564条):買主の損害賠償請求及び解除権の行使
前二条の規定は、第415条(債務不履行による損害賠償)の規定による損害賠償の請求並びに第541条(催告による解除)及び第542条(催告によらない解除)の規定による解除権の行使を妨げない。

◎民法(566条):目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

◎民法(541条):催告による解除
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

◎民法(542条):催告によらない解除
1.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達成することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

◎民法(415条1項):債務不履行による損害賠償
1.債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

◎業法(40条):担保責任についての特約の制限
1.宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2.前項の規定に反する特約は、無効とする。

◎品確法(95条):新築住宅の売主の瑕疵担保責任
1.新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、民法第415条(債務不履行による損害賠償)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第562条(買主の追完請求権)及び第563条(買主の代金減額請求権)に規定する担保の責任を負う。
2 前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
3 第1項の場合における民法第566条(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)の規定の適用については、同条中「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律第95条第1項に規定する瑕疵がある」と、「不適合」とあるのは「瑕疵」とする。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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