不動産業は不動産という高額で重要な資産を取り扱うために、隣地や接面道路等の所有者から取得しなければならない書類が多い仕事です。
取得する書類と言えば具体的には次のような書類があげられます。
・境界確認書
・合意書
・通行掘削承諾書
これらの書類は、不動産業に従事している人から見れば日ごろから目にする書類です。
でも、いざこれらの書類に署名押印をいただきたい「隣地等の所有者」にとっては、ほぼ見る機会のない書類でしょう。
そのような理由から、こんな得体のしれない書類には署名押印はしたくないという方もおられます。
以前、私の周りでこのようなことがありました。
ある営業担当者が合意書に署名押印をいただくべく、調査対象物件の隣接地の所有者のお宅に訪問しました。
ですが、署名押印はいただけない。
理由としては「この文言が気に入らない」とのことです。
それで、その部分を修正して再度書類を持っていくと、また署名押印はいただけない。
今度は書類の別の部分を指摘されてしまったので、その部分の文言を修正してくれと私に頼んできたわけです。
その際に、その営業マンは私に「この人がゴネて署名押印をしてくれない」という発言をしてきたのです。
その言葉を聞いて私はその営業マンを叱りました。
隣地所有者の方に対し「ゴネてとは何事だ!」と。失礼な言い方をするなと。
その言葉を聞いてなぜ隣地所有者の方が署名押印をいただけないのかが分かったのです。
つまり、隣地所有者の方にしてみたら、急に知り合いでもない不動産会社の人間が家に来て、小難しい内容の書類(合意書)を見せられても怖くて署名押印などできないのです。
だから、いろいろと理由を付けて、署名押印をしないという方向に話を持って行ったのでしょう。
つまり、営業マンの説明不足が根本原因だったのです。
不動産会社の社員にとって、合意書の類の書類は当たり前に目にする書類であるため、感覚がマヒしてしまうのでしょう。
ですが、不動産業界とは関係のない仕事をしている多くの人にとって、不動産流通の現場で出くわすことは、人生でも一回あるか否かの話だったりします。
そんなときに怪しげな営業マンが突然家にやってきて、「署名押印をください」といったところで、応じるのが怖いという感覚はよく理解できます。
むしろ我々不動産業界の人間の感覚の方がズレているのです。
その認識をしっかりと持って、「隣地の方に、全ての疑問点・不安な点を解消していただく」まで、丁寧に説明する。
そのようにしていけば、応じてくれる人の割合は確実に増えます。
実際前述の合意書もそのようにして無事に署名押印をいただくことができました。
「文言を修正してくれ」という隣地所有者の方の要求にそのまま反応し、「ゴネる」と人のせいにしているようではプロとはいえません。
それよりも「自分の説明が足りなかった…」と反省して修正できる人間の方が確実にプロへの階段を上っていけることは間違いありません。