エース社員が退職を切り出すとき

経営者となると、社員の退職に関しては、サラリーマンとして勤務していたときとは比べものにならないほど敏感になります。

まして、その退職を切り出してきたのが、会社のエース社員だった場合、社長の精神的なダメージも大きいと思います。

そこで今回は、退職を切り出してきた「エース社員の視点から」記事を書きたいと思います。

まず前提として、この記事の中で会社のエース社員というのは、現に会社内で活躍できており、上司からの信頼が厚い人のことを言っています。

そのような会社のエース社員は、どのような理由で退職を切り出してくるのでしょうか。
なお、親の介護の必要性が生じた等の理由は、会社(社長)に落ち度がなく、どうしようもない理由なので、今回は別の理由で考えます。

エース社員が退職を切り出してくる主な要因は次のとおりです。

①現在よりも条件の良い会社(仕事)が見つかった。
②どうしても現在の会社(職場の状況、仕事の内容等)が嫌になった。

①現在よりも条件の良い会社(仕事)が見つかったについて

現在よりも条件の良い会社ですが、これは転職に限りません。
そのエース社員自身が独立して会社を立ち上げる場合も該当します。

なお、転職についてですが、すでに現在の会社でエースとして活躍していますので、働きやすさや給与面から見ても、可能性としては大きくはないものと思われます。

もし、この社員が現在と同じ職種(不動産営業)で単純に他社に転職をしたいというのであれば、その発言の裏には、何らかの別の理由があるように思われますので、社長としては、その理由を探ることでそのエース社員を引き留めることができるかもしれません。(理由については、②を参照)。

また、例えば、現在は不動産賃貸仲介の営業担当者が、売買仲介をやりたくなったという理由であれば、あり得ることでしょう。
この場合は、もし「戻ってきたくなった場合は、戻ってきても良い」と気持ちよく送り出してあげると後で戻ってきてくれる可能性もあります。

ただし、会社としては、「戻ってきたところで、すでに別のエース社員が育っており、簡単に活躍できる場所は残されていない」という状況を作る必要があります。
戻ってくるか否か分からないような者をあてにして経営をするわけにはいかないからです。

ちなみに、そのエース社員が、売買仲介の営業担当者から、新たに別の業種(保険や、絵画、高級車等)の営業をやってみたいという理由から、転職を希望するのであれば、その営業マンは、追いかけるに値しない気がします。

そもそも不動産業というのは、ひとつの企業でトップ営業マンになったくらいで、別の業種に目移りできるほど浅いものではないからです。

その程度で、他の業種もやってみたいというのであれば、おそらくその社員は不動産営業をしていても、早晩頭打ちになるでしょう。

②どうしても現在の会社(職場の状況、仕事の内容等)が嫌になったについて

どうしても今の状況が嫌になったということもあり得ます。
例えば「営業担当者として優秀だったから管理職を任せた」というような状況だったり、「もともと管理職だったが、部下が変わった」というような状況かもしれません。

今までは、自分だけを律して仕事をしていれば成績を上げられたものの、部下ができたとたんに成績を上げられなくなる人は多いです。

この状況に嫌気がさしてしまい、転職を決意してしまうということが起こります。

当然、個人での成績は良かったわけですから、転職は問題なくできるでしょうし、転職先でも活躍できる自信があるはずですので、転職にたいするハードルは低めです。

本当は、半ば今の仕事を投げ出して逃げ出すような状況で転職を決意したわけですが、この社員にもエース社員としてのプライドがありますので、なかなか「マネジメントがうまくできない」とは口には出せない可能性もあります。

結果として、このまま退職するという道を選んでしまうのです。

この場合の退職については、きちんと退職理由のヒアリングができ、適切に対処できていれば防げた可能性が高いので、いちばんもったいないパターンだと思います。

なお、優秀なプレイヤーだったとしても、マネジメントは苦手だという人は多いです。
そもそも優秀なプレイヤーになれるということは、自発的に動ける人であることがほとんどです。
そのため、自分のチームメンバーの仕事に対する受け身の態度が理解できず、必要以上に部下に厳しくし過ぎて辞めさせてしまったり、厳しくし過ぎた結果、部下から反発されてしまうこともあります。

確かに社長の立場からすると、個人としても優秀で、マネジメントもできるという社員を育てたいと思うでしょうが、その理想を追いすぎて、このエース社員を潰してしまうのはもったいないでしょう。

ですから、この問題に気付いた場合、いちどこの社員から、プライドを傷つけないようにマネジメントの役割を外してあげる必要があるでしょう。

なお、このエース社員も今回マネジメントがうまくいかなかった理由として、「たまたま、今回の部下とは相性が悪かった」ということも多いですし、また、「今回の失敗を自分の中で消化し、次はうまくできるようになる」と、新たに成長してくれるということも多いので、大事に育てていくようにしましょう。

なお、以下は私の知る実際の例です。

個人プレイヤーとして、とても優秀な不動産の調査・契約担当者がいたのですが、マネジメントをしなければならない段階で、部下(年上の部下2名)と相性が合わずに嫌気がさしてしまったというパターンがありました。

その担当者は、退職理由として「不動産の調査・契約のレベルは相当に高まった」ため、「今度は不動産の営業担当者として、一流になりたい」といい出しました。

実のところ、確かに「営業担当者として一流になりたい」という希望もあるにはあったのですが、一番大きな本当の退職理由は「動きの悪い(謙虚さも学習意欲も低い)、年上の部下2名のマネジメントにつかれてしまった」というものでした。

その裏の理由に、その会社の社長は気づいたのです。

そして、そのエース社員のプライドを傷つけないように、その社員を昇進させ、かつ、その2名のマネジメントを外すということをやりました。

結果として、その社員は退職をせずに、現在でもその会社でエース社員として活躍しています。

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この記事を書いた人

・略歴:会社員時代、調査・契約部門のトップを6年間にわたって務め、直接かかわった売買は5,000件以上です。また、調査・契約の専門職員や営業社員を全国で100名以上育成しています。
・保有資格:宅建士、行政書士、簿記、FP、TOEIC等

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